ページの先頭です。 メニューを飛ばして本文へ
現在地 トップページ > 生物資源科学部 > 【生命科学コース】注目!新任教員インタビュー 安藤杉尋教授

本文

【生命科学コース】注目!新任教員インタビュー 安藤杉尋教授

印刷用ページを表示する 2025年4月18日更新

 生物資源科学部生命環境学科生命科学コースに、この4月より安藤杉尋先生を教授としてお迎えいたしました。着任間もないですが、これまでのご経歴やご研究とこれからについてインタビューにこたえていただきました!

顔写真

安藤杉尋教授

Q ご専門やこれまでの研究について教えてください。

専門は植物病理学ですが、大学では植物生理学を専攻していました。学生時代は植物ホルモンという植物の発生?分化を制御する低分子化合物に興味をもって、植物ホルモンの一つであるエチレン(ガス)によるキュウリの雌花形成誘導に関する研究をしました。エチレンは植物の病害応答にも関わる植物ホルモンなので、そこから植物の病気に興味を持つようになり、学位取得後に植物病理学の世界に入りました。

 

1.アブラナ科野菜根こぶ病の研究

植物病理学で最初に担当した研究はアブラナ科野菜根こぶ病の発病機構の解析です。アブラナ科野菜根こぶ病菌が感染したハクサイやブロッコリーの根は「こぶ」状に肥大し、本来の植物の根の機能が果たせなくなり植物体は萎れ、やがて枯死します。肥大した「こぶ」の中には休眠胞子とよばれる、根こぶ病菌の胞子が充満しており、根が腐敗すると土壌に拡散されます。この休眠胞子は土壌中で十年以上も病原性を維持するといわれており、畑が一度根こぶ病菌に汚染されると、アブラナ科野菜の栽培が困難になる防除が難しい病害です。この「こぶ」形成には植物ホルモンであるオーキシンとサイトカイニンが関与することが知られており、私は根こぶ形成時の植物のオーキシンやサイトカイニンの合成遺伝子の機能の解析を行いました。つまり、もともと植物ホルモンに興味を持っていた私にとって、非常に植物病理学の世界に入りやすい、運命的な研究テーマだったわけです。

私はハクサイを材料とし、根こぶ形成時に植物のオーキシン生合成遺伝子であるニトリラーゼ遺伝子の発現が増加することを示しました。すなわち、根こぶ病菌は植物のオーキシン生合成経路を乗っ取り、自分の増殖に利用していると考えることがでます。さらに、研究の過程でニトリラーゼ遺伝子の一つBrNIT2遺伝子の短い転写産物(mRNA)が根こぶ特異的に蓄積することを見出しました。この短いmRNAは根こぶ特異的に遺伝子の途中から転写開始されるという変わった現象によって蓄積することが分かりました。さらに解析を進めた結果、この転写に関わる因子として根こぶ病菌の転写因子を見出しました。このことから、私は根こぶ病菌は自分の転写因子を植物の細胞に送り込み、植物の遺伝子発現を制御することで、オーキシン生合成経路を乗っ取っている可能性を考えています。現在はこの根こぶ病菌の転写因子の機能についてさらに詳細に解析を進めているところです。

根こぶ病

根こぶ病のハクサイの根。健全と比較するとこんなに肥大します。肥大した根の細胞の中にはアメーバ状の根こぶ病菌が充満しています。​

2.イネいもち病菌の感染補助因子の解析

次に取り組んだのは、イネいもち病という日本の農業にとって最も重要な植物病害の一つについてです。コメは日本人の主食であり、いもち病はその最大の病害であり、昔から冷夏にはいもち病が発生して凶作になることがしばしばでした。私はいもち病菌の胞子から分泌される自身の感染を促進する因子の探索を行い、その一つの因子がデオキシウリジンという核酸に一種であることを示しました。デオキシウリジンはDNAやRNAの直接の成分ではありませんが、ごくありふれた物質であり、このような物質がいもち病菌の胞子から分泌され、自身の感染を促進するのはとても興味深い現象でした。そのメカニズムに興味が持たれるところですが、未だ不明のままです。

 

いもち病菌

 イネいもち病菌はカビの仲間で、植物に付着した胞子は発芽して付着器という器官を作ります。ここで圧力を高め、その力で植物の細胞に侵入します。カビも生きるために頑張っている感じがしますね。​

 

3.植物免疫のプライミングに関する研究

植物は様々な病原体の脅威に晒されているため、病原体の攻撃に対して備えておく必要があります。けれど、植物免疫を常に活性化することは植物にとって非常にコストが高く、形質転換によって恒常的に免疫を活性化させた植物は小さくなったり、生育に悪影響が出ることが少なくありません。植物免疫のプライミング(defense priming)は効率的な防御応答の活性化を可能にするシステムで、病原体の攻撃を記憶し、次の攻撃に対し早く強く応答することを可能にします。私たちの予防接種にも似ていますが、植物は抗体を持たないため、メカニズムは違っています。病原体の攻撃はDNAのメチル化やヒストンタンパク質の修飾の形で記憶され、迅速な遺伝子発現の活性化を可能にします。このような遺伝子発現の制御をエピジェネティックな遺伝子発現制御といいます。重要なのはプライミング時には植物免疫がまだ活性化されていないので、コストがかからないという点です(攻撃を受けてから速やかに活性化する)。

私は、シロイヌナズナという植物を用い、ウイルス抵抗性に重要な機能をもつRNAサイレンシング機構の重要な因子であるAGO2遺伝子の発現が、病原体の感染によって「感染していない葉」でプライミングされ、キュウリモザイクウイルス抵抗性の増強に寄与することを示しました。これは感染刺激が植物の全身に伝わる「全身獲得抵抗性」の一例と言えます。

 

プライミング

プライミングのイメージ図​

ドイツでの写真

プライミングの研究はドイツ?アーヘン工科大学で行いました。写真はドイツ?ベルギー?オランダの境目にて。​

4.有機農業の病害抑制機能の解析
ご存知の通り有機農業は農薬や化学肥料を使用しない農法です。でも、なぜ農薬を使わないで農作物を収穫できるのか不思議ですよね。有機農業は病気が全く出ないというわけではありませんが、やはり普通に農薬を使うのを止めただけの畑とは違って病気を抑える機能があるようです。有機農業の書籍などでも「微生物の力」と解説されているのをよく目にしますが、実は科学的には理解できていない部分がたくさんあります。私もそんな「微生物の力」を科学的に理解しようと、有機農業の土壌微生物や植物に定着している微生物の解析を行ってきました。やはり微生物多様性が重要だろうということで、有機農業の多様な微生物叢を病害防除に利用できないかと考え、有機栽培土壌由来の培養微生物のミックスを使ってイネもみ枯細菌病という病気の抑制方法を提案したりしました。実用化には課題がまだまだありますが、興味のある企業さんとかいればまたチャレンジしたいと思っています。

有機土壌栽培実験

病原菌をかけた(接種+)イネのもみを通常の育苗土にまくと枯れてしまうが、有機農業の育苗土にまくと病気が抑えられる。

その他にも、農工連携でプラズマ(電離した気体)照射による植物免疫の活性化に挑戦したり、病害抑制機能を有する微生物の探索なども行ってきました。また、ササゲのキュウリモザイクウイルス抵抗性の温度感受性について興味をもって解析しようと思っています。

 

Q 研究者になろうと思ったきっかけなどはありますか?

実は父も農学分野の大学の教員をしていました。なので、小さいころから大学はかなり身近な場所で、なんとなく自分も大学に行って大学院に行って???とは思っていました。でも当時はその先なんて分からなくて、今の自分を想像はしていませんでした。普通にカブトムシやクワガタが好きで、昆虫博士になる!とか思ってたくらいです。生物好きは高校生になっても変わらず、大学選択も生物学を学びたいと思って選びました。でも「オヤジとは違った道を!」と男子高校生らしく思っていたので、農学ではなく「生物学」なんだと自分に言い聞かせていました(笑)。大学時代もいろいろ悩みましたが、結局実験が好きだったので研究者の道に進んだんだと思います。学位取得後は農研機構などの研究機関の研究者になりたかったのが正直なところですが、人生分からないもので結局父と同じように大学の教員になりました。大学1年生の時の英語の授業で外国人講師の先生から自己紹介で将来の夢を英語で言って下さいと言われ、そんなビジョンもなかった私が「ぷ、ぷろふぇっさー」と答えたのが本当になってしまいました。

 

Q 研究をしていて今まで一番、これはすごいと思った瞬間は?

私の研究キャリアでは世界を揺るがすような大発見はありませんが、小さな発見でも予想通りの結果が出たときや、予想外の結果が出てその原因が分かったときなどは、「おお!」と思います(金岡先生も同じことを書いているので、研究者としてのツボは同じかも?)。例えば、根こぶ病の研究でオーキシン生合成に関わる植物のニトリラーゼ遺伝子の発現解析をしていたとき、なんか根こぶ特異的に小さい転写産物が検出されるなぁ???と不思議に思っていました。そういうことはタマにはあるので、最初は気にしていなかったのですが、あまりにも根こぶ特異的だったので、遊び半分で原因を特定しようと実験を行いました(当時はポスドクで実験をやる時間が沢山あった!)。最初、選択的スプライシングだろうと思って調べたら、そうではなくて???。つい面白くなってしまって、徹底的に実験したところ第二イントロン付近から根こぶ特異的に転写が開始されていることをつきとめました(選択的転写開始)。選択的スプライシングは教科書にも載っていても、選択的転写開始はマイナーで載っていなかったので、「おもろっ」と関西人でもないのに思いました。その発見が根こぶ特異的プロモーター(特許出願)の発見や、それを制御する根こぶ病菌の因子(転写因子型エフェクター)の発見(論文発表)につながり、現在の私のメインテーマになっているのだからスゴイとは思いませんか?マニアックな感じなんですけれど。

 

Q 県立広島大学ではどのような研究テーマに取り組みたいと考えておられますか?

県立大学らしく、地域に貢献できる研究がしたいと思ってこの大学に移ってきました。アブラナ科野菜根こぶ病は私にとって、植物病理学の入口で出会った研究テーマであり、ライフワークとして位置づけています。アブラナ科野菜根こぶ病は広島県特産の広島菜においても深刻な被害をもたらしている病害です。従って、この問題に取り組むのがある意味使命なんではないかと思っています。アプローチは様々ですが、微生物資材を使った防除法の開発にまずは取り組もうと思っています。

その他にも、地域農業で問題となる植物病害の診断や防除法の確立などにこれから積極的に取り組みたいと考えており、まずは問題の把握をしていく予定です。基礎的な研究では、植物―病原菌間相互作用に対する環境要因(生物要因も含む)の影響に興味を持っており、その分子メカニズムの解析を行いたいと考えています。

 

Q まだ来られたばかりですが、庄原や庄原キャンパスの印象はいかがでしょうか?

まだ、1年通して過ごしていないので分かりませんが、非常にのどかで良いところだと思って気に入っています。大学からの帰りには、よく鹿を見かけてテンション上がってます(でも気をつけないと)。庄原の先輩方からは夏は暑く、冬は雪が降ると脅かされていますが???。キャンパス内でも、学生さんは礼儀正しいし、雰囲気もよく、良い人たちが多いなあという印象です。しっかりと教育?研究に打ち込んでいける環境だと思っているので頑張りたいと思います。

 

Q 趣味などは? 

スポーツは硬式テニスをやります。時間と相手がなくて最近はできていませんが。スポーツ観戦も好きで、中学のころからプロ野球はヤクルトファンです。カープは2番目に応援しようと思います。

 

Q 高校生や在校生になにか一言

大学では自ら学び、課題を見つけ、その解決方法を導き出すことが重要と考えています。本学の理念はそれにピッタリで、私も共感してここに居ます。大学選択や学部選択、研究室選択、就職先の選択などこれから様々な選択がありますが、結局どこに行くかよりも、そこで何をするかが重要だと思っています。行った先で、真摯に課題に向き合い解決していける人間になれるよう、一緒に(私も)頑張っていけたらと思います。

 

安藤研アイコン

 安藤教授は、植物病理学(生命環境学科?地域資源開発学科3年生、第1クオーター)、総合防除管理学(分担?地域資源開発学科3年生、第1クオーター)、微生物学(生命環境学科1年生、第4クオーター)を担当します。それ以外には学生実験などを担当します。

 また、生命科学コースでは、動植物、微生物、細胞などを用いてさまざまな分野の研究が行われています。進展が著しい生物学ですが、生命科学コースでは先端的な分野を学ぶことができます。

 

生命科学コースホームページ

生命科学コースインスタグラム